東京育ちの私にとって、雪の日には格別な思いが強く、子供だった頃に 吸い込まれていくような静寂のなかで目覚め、カーテンを開いた窓の外に 雪に覆われた世界が広がっているのを見るのは、衝撃的な出来事だった。
音もなくしんしんと降る雪には、なにかしら未知の生き物が潜んでいるような 密やかさが感じられた。中庭の小さな竹やぶや裏庭の柿ノ木にも雪は降り積もり 少しも他の色を残さずに、物の輪郭だけを残して、真白に塗られた キャンバスのような白銀の世界を見る毎に私の胸は高鳴った。

どこまでも白い眼前の風景は、どこか正月の青空と重なる。
すっかり人も消えて、閉ざされた商店の連なる路地裏で叔父と揚げた凧。
その凧もろとも吸いあげられていきそうに深く高い東京の元日の青空。
雪の日の白は、正月の青と合わせ鏡のようにひとつの像を結ぶ。

雪が降ると、かつての雪の日の記憶が蘇ってくる。
私がまだほんの子供だった頃、あるいは私がまだ若く孤独だった頃。
私が恋をしていた時にも、傘も持たずに地下のバーで飲んでいた時にも、 情け容赦なく、静かに雪は降り積もり、私は閉じ込められ、置き去りにされた。
けれど今も、私はその雪のひとひらが自分の元に落ちてくるのを待ち続けている。
この東京の青空の下で....

2008年元旦の東京にて 川村法子



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