作家紹介

川村法子


 DAIGAは、知る人ぞ知るデジタルフォトグラファーである。
 年令は不詳であるが、今さらどうなるわけでもあるまいから、野暮な追求はしないでおこう。

 彼のプロフィールからは、豊かな環境で育ったちょっとエリートな半生が想像される。
 大学を卒業後に写真学校に学び、パリに4年遊学している。自由人と呼ぶのにこれほど適した人を、 私は他に知らない。

 ちょっとだけミステリーな誕生をしたDAIGAは、父親の名前を明かされず、写真を見せられず、 目黒の料亭の女将だった祖母に慈しんで養育された。母親は商売の才長けた人で、また日舞の名取りでもあり、その腕前は名手といわれた「花柳三之輔」の代稽古をつとめるほどであったと聞く。
 常に深夜遅くまで立ち働いていたが、息子の登校時刻には身支度を整えて門口に立ち見送りを欠かさなかった。
 一見、風雅な世界を支えるもの、極めて日本的な装飾、邦楽の音色、巷の醜聞、権力の抗争.........
 彼を取り囲んでいた環境にいささかの興味を覚えるのは私ばかりではあるまい。
 そこから逃れるようにして....と私の想像ははたらくが、事実はそういう事とは無縁に、誰の眼にも写真家への道を順調に歩み始めたかに見えたDAIGAは、春の訪れに外套を脱ぐほどの自然さで、 いとも軽やかに単身パリへと向かったのであった。
 それは、デジタルな人生のはじまりだった。

       

Il y avait autrefois de l`affection, de tendres sentiments,
C`est devenu du bois.

*Jules Supervielle(ジュール・シュペルヴィエル)著
L'Arbre [ Les Amis inconnus ] 樹『未知の友だち』より


 大平一枝は、現在躍進中のノンフィクションライターである。
 彼女のアンテナは無制限に、大胆に四方にはり巡らされているが、決して人様の邪魔にならない。

 大平は、公務員であった父親の事情で長野県で生まれ育った。幼少の頃、宴席で酒に酔った地元民が 父親に対して、あながち冗談とはとれぬ口調で「よそもの」呼ばわりするのを聞き憤りを感じた経験をもつ。
 そんな彼女からは、すでに幼き日よりノンフィクションライターとしての素養が感じられる。

 しかし、大平とて安穏と平坦な道から作家になったのではなかった。問題意識を持つことが当たり前の感性を 授けられた彼女に、天は正義感というおまけを付けるのを忘れなかった。
 大学生の頃は、熱心にさまざまな社会運動にも参加した。そう、彼女の中の熱いものが傍観するということを 潔しとさせなかったのだろう。その証拠に?恋だって経験した。同士のような恋人とはやがて結婚した。その恋人は「まあ、いいじゃないか」が口癖の優しい夫に成長している。
 作家になる前に、彼女は児童養護施設で保育士をしていた。子供達の就寝時刻は9時で、その頃遅番の勤めを終えて身支度をしていると、寝つけない子が「先生、バンドエイド貼って」と言う。でも絆創膏が必要な傷は 見当たらず、子供達は甘えたくて、一対一で向き合ってほしくて「バンドエイド!」と求めていたのだった。
 彼女は、持ち前の瑞々しい感性で、真夜中の絆創膏は、子供達の寂しさのバロメーターであることを知る。
 やがて大平は、当時の仕事に迷いや悩みを抱え3年間の試行錯誤の日々を過ごすことになる。

 プロのライターになった大平は、当時を振り返り、そうした日々が今の自分を支えているし、人生に無駄な事 などひとつもないと気付いたと言う。豊かな人生のための『間』だと思えば、立ち止まることは怖くない。
 これは作家、大平一枝の座右の銘であろう。

*大平一枝+高市美佳 著作「真夜中の絆創膏」参照


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