「世界のつぶやき」

 作曲家・武満徹さん死去−わたしは、この悲報をコ−ヒ−ショップで知った。その朝、駅前で偶然会った恩師の教授と、店で手にとった新聞を見てのことであった。わたしたちは、少しの間沈黙し、淋しさを共有した。

 わたしは、彼の「カシオペア」という曲が好きであった。それから数日の間、各新聞には、武満徹さんの追悼文が載せられた。その中に胸にせまるものがあった。武満さんのエッセ−からの引用文で『「私は、作曲という仕事を無から有を形づくるというよりは、既に世界に偏在する歌や声にならないつぶやきを聴きだす行為なのではないかと考えている。音楽は、紙の上の知的操作から生まれるはずのものではない。それよりは、この世界が語りかけてくる声に耳を傾けることのほうが、ずっと、発見と喜びに満ちた、確かな経験だろう。」そのつぶやきから武満さんは美しい音楽をつくった。(毎日新聞96.02.21朝刊)』というものだった。

 その彼の想いをふまえて、彼の音楽に耳を傾むけていると、わたしは生きる喜びが身体中に溢れてきたように思う。そして、人の一生のはかなさをかみしめている。わたしは、彼の言葉を大切に心の中に封じた。わたしもこの世に生かされている、ちいさな存在として、何かを愛しむように写真を撮り続けてゆきたいと思う。実際、写真を撮る喜びは、生きている喜びと無縁であるはずもないから・・・


川村法子 1996.3.10
Copyright(C) Noriko KAWAMURA 1996


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