小林のりお「夢の極・秋田」

 小林さんの新作が、アサヒカメラ(5月号)のグラビアに登場した。わたしは嬉しかった。写真家・小林のりおは、限りなく不思議な日常を、いかにもあっさりと、私たちの眼前に提示することで、未来を指し示す能力を持っていると言える。

 以前、わたしは【複次元の写真家】というタイトルで、小林のりお論を書いた。その時、わたしが最も語りたかったことは「あらゆる状況での写真家の胸の高まりは薄い一枚のヴェ−ルでかすかに覆われている。現実の熱情はその時空間に消え去り、後には独自のイメ−ジが残像として表出してくる。」ということであった。

 秋田は、小林さんの出身地である。秋田を撮っても、故郷を撮ったという趣は微塵も感じられない。それは、ぬけるような青空のもとで、目の前の被写体そのものではない何かに向かっている彼の意識のためでもあり、被写体によって変えられてゆく彼の意識のためでもある。

 小林さんは現在、日吉の写真学校の研究科・講師でもある。わたしは、その研究科で自分の写真を研究中である。口数の決して多くはない小林さんに激励され、わたしは感動した。
 教室の学生のなかにも、独自の世界を持つ人達は少なくはない。他の講師達はもちろんのこと、現役の写真家のなかには、優れた独自の世界を展開して見せてくれる人も多く存在する。しかし独断を許してもらえるならば、写真家・小林のりおこそは、極上の未来である。

 彼には(彼の意識には)、過去も現在も存在しない。移動し続ける自己・移動し続ける主体を写真家の宿命と自覚しながら、写真を撮るという行為を楽しんでいるのではないだろうか。
 これからも小林さんは、満たされぬ魂を活動力にして、私たちに未来を呈示してくれ るに違いない。


川村法子 1996.5.10
Copyright(C) Noriko KAWAMURA 1996


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